Aug 31, 2011

summer time and the livin' is easy

猛暑が過ぎてやっとそんな歌を歌えるようになりました
暦のうえではもう秋だし、夜に窓から忍び込んでくる空気はまさに秋のそれですが

今年の夏は自分を再び知ることになった夏だったように思います
何もなかったけどすごく楽しかったなぁ

そして表題のBille Holidayなど、アメリカの旧き良き音楽もたくさん聴きました

やはり歴史に残る音楽は理由があって歴史に残っている

ちなみに下の写真はOmelieがかれこれ10年くらい前に私に作ってくれた風鈴
南にピンクを飾ると恋愛運があがるとのことで、ピンクの魚を持った女性の絵ずっとお気に入りの夏の道具

Aug 30, 2011

時のかさなり

人類から戦争をなくすためには子供を3代において家族から引き離さなければならないと、あるSF作家が云っていたらしい。
どのSF作家なのか、本当にこの言葉を言ったのか、言ったとしたらどんな前後関係があるのか、実のところ全く知らない。
しかしこの本を読んだときにふと甦り、自分がその言葉をいかに記憶に残っていたか知った。

ナンシー・ヒューストン著『時のかさなり』は親子4代、それぞれ6歳のときを遡って語られる。
読み進めるうちにぼんやりとした家族の象徴が浮かび、そこに少しずつ記憶が提示される。
また実際の出来事が骨として加わりふたつを結びつかせ、読者はその意味を深い印象とともに理解することとなる。
この家族の【象徴】や【記憶】の根幹には、最終章の語り手であるクリスティーナの経験した戦争があるが、
6歳という年齢では、外郭だけの理解と、大人以上の鋭い理解がある。
「戦争があった」といった記憶は背景や歴史的意味においてではなく、
彼女の経験、そして「クリスティーナ」が「エラ」として歌手になった過程にある。
家族それぞれに与えた影響が明確になり、戦争の傷跡がいかに家族に伝承されるか知る。
一番身近な歴史は家族なのだ。

家族の記憶は、明文化された事実やはっきりとした言葉ばかりではなく、感情や言葉の端々によっても伝承される。
それが自分より過去の出来事を自分と繋ぎ合わせ、自分の歴史や歴史観を形作る。
私はSF作家の言葉には同意したくない。しかし悲しいことに、ある意味においては的を射ている言葉なのだ。
最初に描かれるソルという男の子こそ、戦争の悲劇の結果なのかもしれない。

Aug 29, 2011

サンライズとサンセット

ある夜、テレビをつけたら"Before Sunset"をたまたま放送していたのでなんとなく観る。
なんとなく、というのは前作の"Before Sunrise"があまりに良くて夢を壊してしまうような続編は観たくない!と思っていたから。でも目の前の装置で流れていると、ついつい観てしまう。

結論は、本当に観てよかった!
なのでDVDを2枚とも購入。買ってすぐに前作を観ました。
前作を観たのは随分前。当時観た時の感動は薄れてしまっていたのは少し悲しかった。なんだか過去を振り返っているような、ほろ苦い気持ちになっていました。
この映画を再び観て、私がいかに学生時代に執着してきかを思い知りました。すべてが新しくて、知らないことばかり。すぐに恋に落ちて、すぐに感動をする。好きなことばかり考えていられる生活。いつもそのころに戻りたいって思っていた。
でも本当に戻れたら今の私はどう感じるのか? きっと想像よりつまらないでしょう。今は知識を得て、経験もたくさんした。それにその経験のおかげで自分の好きなもの、自分らしい物事がわかるようになってきた。「ときめき」なんてそんなに感じなくなった代わりに、「幸せ」を感じられるようになってきたと思う。主人公二人の会話を見て、そんなことを思いました。

"Before Sunset"は前作の味をまったく損なっておらず、2作の間に空いた9年間の真実味もあってすごく見ごたえがありました。本当に脚本が素晴らしい。
主人公のふたりと同じように、私も年齢と経験を重ねてきた。だからふたりの感情が私のなかで自然と再生されました。

"You come here to Paris, all romantic, and married"
これはジュリー・デルピー演じるセリーヌの台詞。字幕が秀逸でした。
「少年の心のままパリに来るなんて」
この言葉には二人の、そして普遍的な男女の関係性がよく表れています。
男性は夢のなかで現実を生きて、女性は夢のために現実を生きている。
30代にこの葛藤が最も顕著にでるのかも知れない。だって20代は女性も夢のなかだったから。
しかし女性は自分の機能の期限、つまり子供を危険性なく産める年齢の限界が迫ってきていることに気付いてしまうのが30代だと思う。
だから夢を見つつも、目の前にある現実を直視することになる。男性をその現実につれてこようとしても大変。そこから葛藤がうまれる。
考えれば考えるほどわからなくなり、迷宮に入ってしまいます。
きっとその迷宮が男女の関係の醍醐味でしょうけど。

しかし…イーサン・ホークの老け方には驚愕しました。
昔はあんなにかわいかったのに! 時間は残酷…
そしてジュリー・デルピーはさらに美しくなっていることに驚き。
実はジュリー・デルピーのことを昔はあまり好きではありませんでした。
ゴダールの映画で観たとき、なんでゴダールはこの人を選んだんだろうかと思ったくらいです。
アンナ・カリーナ的なかわいらしさがすごく好きだったのに、カーリーヘアーの薄い顔の女性なんて、と。
でも今は彼女の美しさがよくわかるようになりました。
彼女こそ内面から輝く美しい女性だな、と。

今、"2 Days in Paris"の続編になる"2 Days in New York"を撮っている様子。
パリジェンヌの彼女が撮るアメリカにすごく興味があり、今から公開がとても楽しみです。


Aug 18, 2011

日本史上最も知的な雑談

本屋でぶらぶらしていたら、平積みになったこの本に出会い、迷わず購入し、帰りの電車から読み始めました。

『人間の建設』 小林秀雄×岡潔

対談なので読みやすさはありますが、文字の奥に広がる世界が広く読み解くことはなかなか困難でした。何しろ岡潔の数学の話。巻末の参照や広辞苑、ネットを使いながら知らない言葉を調べていくわけですが、初めて知る数学の世界はまるで曼荼羅のようで、知らないことに関する畏怖の気持ちでいっぱいになりました。
実は岡潔の存在を教科書以外ではまったく知りませんでした。
googleで【岡潔】と入力すると予測変換のひとつめが【岡潔 奇行】とは。この本を読んだあとにその奇行の数々を読みました。奇行とはまさにこのことと納得することばかり。曰く、岡潔は雨靴しか履かなかったとのこと。革靴は歩くと頭に響くが、雨靴はゴムだから頭に響かず思考の邪魔にならない。
作中、私は小林秀雄の遠慮気味な言葉の選び方に少し違和感をおぼえていたのですが、これなら納得。おそらく小林秀雄は革靴で岡潔のもとを訪れていた。そして〔私の勝手な想像ですが〕小林秀雄は自分の選んだ革靴に誇りを持っており、もし歩いて音が頭に響いてもそれは思考の邪魔をするどころか助ける役割を持っていたのではないか。
そんなふたりの対談なので最初は遠慮するでしょう。しかし途中で岡潔がトルストイを悪く言うと、小林秀雄ははっきりと意見を述べる。そこに小林秀雄の芯を感じました。



表題は本に書いてあったコピー
少なくとも私が知る範囲では、最も知的でした