どのSF作家なのか、本当にこの言葉を言ったのか、言ったとしたらどんな前後関係があるのか、実のところ全く知らない。
しかしこの本を読んだときにふと甦り、自分がその言葉をいかに記憶に残っていたか知った。
ナンシー・ヒューストン著『時のかさなり』は親子4代、それぞれ6歳のときを遡って語られる。
読み進めるうちにぼんやりとした家族の象徴が浮かび、そこに少しずつ記憶が提示される。
また実際の出来事が骨として加わりふたつを結びつかせ、読者はその意味を深い印象とともに理解することとなる。
この家族の【象徴】や【記憶】の根幹には、最終章の語り手であるクリスティーナの経験した戦争があるが、
6歳という年齢では、外郭だけの理解と、大人以上の鋭い理解がある。
「戦争があった」といった記憶は背景や歴史的意味においてではなく、
彼女の経験、そして「クリスティーナ」が「エラ」として歌手になった過程にある。
家族それぞれに与えた影響が明確になり、戦争の傷跡がいかに家族に伝承されるか知る。
一番身近な歴史は家族なのだ。
家族の記憶は、明文化された事実やはっきりとした言葉ばかりではなく、感情や言葉の端々によっても伝承される。
それが自分より過去の出来事を自分と繋ぎ合わせ、自分の歴史や歴史観を形作る。
私はSF作家の言葉には同意したくない。しかし悲しいことに、ある意味においては的を射ている言葉なのだ。
最初に描かれるソルという男の子こそ、戦争の悲劇の結果なのかもしれない。
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